帆布 canvas

子どもの頃、母が骨董屋を経営していたので、イギリスやフランス、日本国内での買い付けに良く同行しました。だだっ広い野原に出店者が並ぶイギリスのショーグラウンドやフランスの田舎町で蚤の市などに行くと、つい立ち止まってしまうのが魅力満載の古着コーナー。

程よく色落ちして柔らかくなったヤレ感が絶妙なコートやバッグに手を伸ばすと、大概がどこかしらの国の軍もので、古い上、過酷な使い方だったろうに… しっかりした造りで飾りも無く機能的でかっこいい。1シーズン着たら伸びたり、ほつれたり、穴が開いたりする最近の衣類とはそもそも布が違うんじゃないか??とずっと不思議でした。

時はコロナ禍。チェンマイには無いそんな風合いの布でコートを作りたいな、と、手持ちのビンテージ物を握りしめ、生地メーカー巡りをした2020年。そしてたどり着いたのが「帆布(はんぷ・キャンバス)」。なのですが… 古い軍モノのような生地は今買えるものではないと判明。丈夫な帆布で作られたものを長年着て、使って、馴染んで、やっと出てくる風合いとのこと。…なのでこの素敵な風合いは自分で作り上げるしかない!

「こんな生地を使いたい!」参考にしたたすき掛けバッグ。フランス海軍のものだそうで、金具も引っ張ると歯が噛んで開けられないようになっている丁寧な造りです。
そして。海、山、どこで着て汚れても、繰り返し洗えて、都会でもスマートに着られるデザイン。生活に寄り添いながら長年着てほしいコートを作ってみました。

帆布は、綿(または麻)の糸をより合わせ、1本づつ交互に織る「平織り」のシンプルな生地で、糸が交差する点が多くとても丈夫。バーンロムサイの定番「チェンマイコットン」も「ガーゼ」も糸は細いけど、案外丈夫な平織りです。アメリカは「オンス」、日本では0号(もっとも厚い)帆布から〜11号(最も薄い)帆布まで「号数」で生地の厚さが表現されています。イメージ的にはトートバッグや運動靴でしょうか。

日本に帆布が登場したのは江戸時代後半らしく、それまでは植物繊維を編んだむしろのような帆や、綿の生地何枚か重ねて縫った帆を使っていたので、頑丈な織物で風を受けて進む船は大変画期的だったようです。後にテントやシート、軍服など、強度と耐久性が必要とされる物に使用されるようになりました。豊かな水源と海に囲まれた水の国らしい呼び方の「帆布」ですが、英語のcanvasはどちらかと言うと絵画の土台の意味合いが濃いように思います。元々絵画のベースだった木の板は気候によっては痛みやすかったので、中世のヨーロッパ、ヴェネチアの作家たちがキャンバス地を使うようになったのが始まりと言われています。

薄手の帆布にロウ引き加工を施したものは元々の丈夫さに加え、汚れ防止にもなり、何よりも擦れたり使い込むほどに現れるチョークマークもさることながら、着用とともに柔らかくなるエイジングが魅力的な生地です。例えれば:ヌメ革のイメージでしょうか。長い年月使い込むほどに味わい深くなり、自分に馴染んでくれる… そんな雰囲気の生地に育って(?)くれればと願って。初めて日本製の帆布でコートを作ってみたので、よかったら覗いてみてください。

こちら、事務所周辺にて 1stサンプルで撮ってもらった映像です。嬉しくていっときブログのトップにしちゃいます。Special thanks to Brian!

その他 色々な生地に関して…「麻、リネンなど」「裂き織り」「日本の藍染」「蓮の布」「カレン族の腰織

miho

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